* * *
服部の作戦はすぐに功を奏した。
冷静にスパイクを見極め絶対アウトになりそうなものは見送り、それだけで俺達は五点を追加した。いちいち数えていた訳じゃないからわからないが、多分それだけじゃなかったと思う。それまでは気づきようもなかった相次ぐスパイクミスに流石に相手も焦ったのか、それから俺が受けきれないほどの強打も滅多に打ち込まれなくなった。
そうなりゃこっちのもんだ。
「――オーライッ!」
俺は叫んで、手加減の感が否めない相手のスパイクを正面から受けた。冷静になれば、これまで忘れていた声出しもできるようになってくる。
「行くぞッ」
野瀬が返球を受けて基本のオープントスを上げる。一瞬の溜めはやはりあったが、何回も見ていればそれも一定であることがだんだんわかってきた。
助走から踏み切り、ボールに腕を振り下ろす。
「ユキっ――!」
後ろから、浜野の声が聞こえた。
スナップを利かせんとする俺の手首の正面にあるのは、自由落下してきたトスボール。
……いける!
床に激しくボールの叩きつけられる音が、この試合中初めて相手側コートから上がった。それは今までの練習中なら毎日聞けていた音だ。
偶然ではなく、意図して態勢を整え初めて決まったスパイク――
「ナイスッ」
野瀬が声をかけてくる。得点は十六対十一。一気に追い上げてきていた。
「いけるか、ユキ?」
「……掴めた気がする」
「何が」
「タイミング」
主審がサービスを許可するまでの間、俺は相手コートから送られてきたボールを手に、サービスを打つためサービスゾーンまで歩きながら野瀬に答える。
「失敗するかもしれないけど……何回かサービスで得点稼いでみる。その後は、今まで通りにトス上げろよ――」
俺は言う。
「多分、バックアタック打てると思うから。頼むな。……ムツ」
野瀬が何かを答える前に、俺はサービスラインに立ち、主審のサービス許可を待つ。
笛が吹かれ――
打ち込むのは、この選抜試合では初めて使う、渾身の変化球サービス。
それはネットにかかることなく相手コートへとダイブし、エンドラインぎりぎりに落ちて一点を追加した。
* * *
結論から言ってしまえば、俺達のチームは快進撃も虚しく敗北した。
いくら態勢を立て直したといっても、元々態勢が整っている相手と途中からの俺達とでは明らかに差がある。俺がサービスで二点ほどを追加し、更に野瀬との攻撃で三点を取ったが、そのスパイクを決めるまでの間でミスを重ね七点もの失点をしてしまったのが痛かった。
相手からの攻撃も何回か受け、試合結果・二十五対十七。
一回も同点に追いつけなかったが――不思議と後悔は残らなかった。
まして七点も、自分達のミスで失点したというのに。
「……失った七点よりも、努力して勝ち得た三点の方がでかいってことか」
選抜試合が全て終了して翌日の放課後、練習チームの振り分け結果を顧問の口から聞きながら、俺は小さくそんな気取ったことを呟いてみた。
思い出すのは試合終了間際。
相手がマッチポイントの二十四点に到達し、その直後のラリーから連続で決まった――野瀬とのアタック。
それまで七点分もバックアタックで失敗していたというのに、一回バックアタックが決まってからは立て続けに二点分もオープントス・スパイクが決まった。最後の追い上げと言わんばかりの猛攻撃に、相手側も多少は戸惑ってくれたように思う。
それでも負けたが。
まぁ、いいんじゃないかと思える訳だ。
「……俺達が得たもんは、得失点如きじゃ語れねぇっての」
その相手チームだった三人組は既に名前を呼ばれ、将来最も全国に近いAチームに配属が決まっていた。俺はまだ名前を呼ばれていない。Bチームまでが読み上げられたところで、野瀬も、浜野も、服部も、全員がまだ残っていた。
……何となく、王道な感じだな。
「次、Cチーム」
顧問が三チーム目の発表を始めた。
「セッター・野瀬睦」
呼ばれて野瀬――ムツが立ち上がる。
「補助アタッカー・浜野恵」
続いて浜野――メグが。
「マネージャー・服部実紀」
それから服部――ミキ。
「最後、エースアタッカー――」
ムツがにやにやとした笑みを向けてきて、メグがやっぱり優等生的な微笑を浮かべてくる。ミキがついに耐えられなくなったのか、くつくつと小さな笑い声を上げ始めた。
……はいはい、わかってますよ。
顧問から名前を呼ばれ、午後の日差しがまっすぐと照らし出す中、俺はCチーム最後のメンバーとして――立ち上がった。
それは、ムツ、メグ、ミキ、俺、と今後校内であれやこれやの馬鹿騒ぎを繰り広げることとなる練習Cチームが結成された、恐らくは記念すべきなんだろう、瞬間だった。
[アタックナンバーワン 了]
[読了感謝]
初出:O高校文芸部特別誌
参考資料:「確実に上達するバレーボール」
(葛和伸元・監修、実業之日本社・刊、2005年)
「NEW COLOR SPORTS 2008[総合版]−生涯スポーツと体つくりのために−」
(一橋出版保健体育編集部・著、一橋出版・刊、2008年)
(敬称略)
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