昔話をしよう。
それは、現在とある県立高校に通う一高校生である俺が、まだ青臭くて生意気なガキんちょだった頃の話だ。青臭くて生意気なガキなんて、それは昔のみならず今もそうなんじゃないかと言われそうだが、そういう突っ込みは今回はなしである。今の俺がガキであろうとなかろうと、そんな今と比べれば昔の俺・私立男子校の中学一年生だった頃の自分の方がよっぽどガキであることに間違いはなく、……こんな言い訳をしているところからもわかってもらえる通り、今の俺も充分ガキであるということは承知の上だ、あえて否定はしないさ。ただ、昔の自分を語るのに少しばかり大人びた自分っていうのを演出してみたかっただけだ。そんな風にやたらと背伸びをしたがる辺りも、ガキと表現して何ら間違いない。
……何の話をしていたんだっけ?
そう、昔の話。俺の過去の話――が、それを「俺の」話として語っていいものなのか、俺は正直判断に迷う。というのも、この話が俺の体験・見聞したものであることには間違いないものの、この話の主軸というのが明らかに俺ではないからだ。主軸。それは言い方を変えれば、そう、この物語の主人公とでも言うべきだろう。
それは俺じゃない。
俺ではない、別の人間だ。
しかも、その過去の話をこうして小説として記述することについて、俺は主人公というべき友人に許可をもらっていないのだ。自分自身の話でもないのに自分の話として語ろうとしている、且つ、語ることについてゴーサインを受けていない、で、今の俺は二重苦であるともいえる。語りたい、しかし語っていいものなのか、身体の内部で天使と悪魔が肉弾戦を繰り広げ、悪魔が辛勝を決めた末、しかし迷いを伴いながら、俺は今こうして原稿に向かっているという訳だ。
が、そうして悪魔が辛勝の形であるとはいえ勝利を収められたのには理由がある。結局のところあいつは人が好いのだ。俺が彼の話を俺の話として語ろうとも、それについて無許可であっても、全然、全くと言っていいほどに気にしないのである。だからこそ、俺は今回小説を書くに当たって他の誰のでもなく彼の話を選んだのであるし――第一、そんな彼の持つ物語を魅力的だと思う訳だ。
お人好し、ポジティブハイテンション、笑顔の似合うハンサムイケメン面。
この話は、そんな彼・野瀬睦と、その一友人である俺が、青臭くて生意気な中学一年生のガキだった頃の話だ。
それは、ある寒い冬の日のこと――
|