昔話をしよう。
今回は多くを語らずに、本当に、必要最小限のことだけを語ろうと思う。というのも、俺はこの話について皆目麗しい情景描写や心理描写、やたら耳障り目障りのいい美辞麗句を連ねて多くを語りたくないのだ。もちろん、そうした方が読む側にしては目に美しく読んで心に染み、分量によっては大した読み応えさえ得られるだろう。が、この昔話の体験者である俺は、そんなことのためにこの話をごちゃごちゃとうるさく飾り立てたくないんである。
表面だけをなぞったような飾った言葉は――
この物語を、嘘臭くしてしまうだろうから。
俺が持つ過去話の内の一つであるこれは――
他に紛うことなき、真実だから。
下手に飾れば嘘臭く感じてしまうほどに――
嘘みたいに、綺麗な話だと、思うから。
……。
だから、長い前置きも当然いらない。必要なのは秋風と五百段を超える階段、いつ聞いたか思い出せそうで思い出せないあのメロディーで充分だ。
それでよければ、始めよう。
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