* * *

 なんて、そんな風にくだらない会話を続けている内に、スチロール容器二つにいっぱいに入っていたおでんはたちまち姿を消した。十代の男子の胃袋は無敵である。それが四人分集まっているとなれば尚更だ。
「っはー、食った食った! 非常に満足した! 感動したッ!」
「どこの小●総理だ」
 最後に残った出汁を一通り飲んだ後で天井を仰いだムツに突っ込みを入れると、突っ込まれた方のムツはもう一度「っはー」と大げさに息を吐いた。口からほんの少し白い息の帯が上る。
「うん、お腹も膨れたし、僕も満足だよ。ムツありがとう。……凄くあったまったね。やっぱり寒い日はおでんだなぁ」
 とか笑顔で言うメグの意見には、俺も反対するところはない。この冬初めて食うおでんだったが、ムツもまたいいタイミングで買ってきてくれたもんだ。具のチョイスが全部ムツの勝手な判断だったために牛すじが入っていなかったのはやや残念だが、それはまたの機会に食えばいいだけの話だしな。
「んじゃ、今度は牛すじで熱燗の方向で! 部室だと酒盛りできないから、誰かんちに集まってこっそり飲みますか♪」
 俺がその旨をさりげなく伝えると、ムツはこちらに向かってぐっと親指を突き出してきた。燦々と輝く太陽のような一点の翳りもない笑顔に、思わずため息が口をつく。
「さっき言ってた『将来』ってのは随分と近い将来だったんだな……」
「何、ユキ嫌なのか? お酒好きなんでしょ? 違ぇの?」
「いやまぁ、好きだけど……」
「じゃあいいじゃん。十二月はドサクサで酒が飲めるぞ! 酒が飲める飲めるぞ〜、酒が飲めるぞ〜♪」
「お前よくそんな歌知ってんな!」
「日本全国酒飲み音頭」なんて知ってる中学生、今どのくらいいるんだろうね。
 いや、俺も知ってるけどさ。
「十二月はドサクサで飲めるんだ? でもそれって結構言えてるかもなっ」
 再びジャ●プを手に取って続きに目を通しながら、ミキがそう言ってきゃらきゃらと笑った。
「まずクリスマスだろ? 忘年会だろ? 大晦日だろ? 飲みに行けるイベントには事欠かないもんなっ。忘年会とかメンバー変えて何回だってできるしさ、本当にそのままの意味でドサクサで飲める感じだよねーっ」
「そうだな。十二月って酒飲むかは別にしても、色々と騒ぐ口実には困らないんだよな。……あ、じゃあさ。今度誰かんちでおでんで飲むのとは別に、来月は部室でアレコレ食う? できたら他のチームの奴等も誘ってさ。カナとかアキとか。おっ、理音あたりの部外者呼ぶんでもいいな!」
 なんていうムツの意見に同調して、「うわっ、それいい!」とか言いながらミキがぱっと顔を輝かせる。
 早速来月の計画を色々と相談し始めた二人を眺めながら、すっかり冷めた缶コーヒーを啜って俺が達観者気取りで呆れたようにため息をつくと、隣でメグがくすりと笑う声が聞こえた。



「……十二月はドサクサで、ね」


「……十二月はドサクサで、ね」
 ――クリスマスにはケンタッキーのチキンを食べるのがセオリーだよな。
 ――いやいや、ケーキだって欠かせないだろっ。
 ――忘年会は豪華に鍋でもするか?
 ――いいねぇっ。すき焼きとか食べたい。やっぱ肉がいいよ、肉が。
 ――ファミレスのパーティープレートとか宅配してもらうのもいいな――
「……楽しそうでいいね。はは、ちょっと来月が楽しみだよ」
 俺と同じくムツとミキの計画に耳を傾けていたらしいメグは、読みかけだった薄手の文庫本を開きながら俺にだけ聞こえるようにそう言った。俺は肩をすくめて答える。
「俺は酒が入らないかどうかだけが心配だよ。……後はまぁ、それと、」
 十二月にドサクサであれやこれやと大騒ぎを繰り広げる前に、できればもう一度だけ――こんな寒い日に、部室でおでんを食べたいもんだね。
 それもできれば一人でじゃなく、ミキとメグ、それからムツと共に。
 ……なんて。

 恥ずかしくて、到底、言えないけれど。

 先述の「日本全国酒飲み音頭」によると、十一月は「何でもないけど酒が飲める」らしい。
 それと同じで何でもなくたって、俺達はこうやって馬鹿騒ぎすることができる。
 例えばおでんだとか――そんなちょっとしたことで。
 いかがだろう、「日本全国酒飲み音頭」も、十一月はおでんで酒が飲めることにするってのはさ。


[ウィンターカミングスーン 了]
[読了感謝]

作中歌詞引用:「日本全国酒飲み音頭」
(シングル「日本全国酒飲み音頭」、1979年12月1日)
作詞:岡本圭司、作曲:ベートーベン鈴木
演奏・バラクーダ(ボーイズバラエティー協会・ドリームレコード)

参考URL:セブン-イレブン

三代目の拍手お礼で公開していた小説&イラストです。
2011年12月1日〜2012年4月日までお礼画像として、連続拍手で読めました。
……まぁ、読めばおわかりいただけると思いますが、
単にCチームのみんながセブンのおでんを食う話が書きたかっただけです(笑)
この小説を書くために、わざわざ取材と称しセブンでおでん買いました。
……それはただ僕@管理人がおでん食べたかっただけだろという噂もありますが←
番外編、というかボーナストラック的な小説だと思っていただければ。
みんなでわいわいやっている様子が書けて楽しかったです。
これと入れ替えた新しいお礼画像は六種類、ランダム表示のイラストです。
よろしければぽちっとお願いします♪


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