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「いいか、よく聞けよ? ……大根とたまごは一人一つずつな。ちくわとはんぺんは二人で一つ。ロールキャベツと白滝と、ウインナー巻きとじゃがいもは二個ずつしか入ってないから早いもん勝ちな。あ、ちなみにじゃがいもにからし塗らないで食う奴は俺が許さねぇから」
食欲増進の効果がある出汁の香りが立ち上るおでんの具を、片っ端から説明していくムツである。
「それから、メグが好きだって言ってたからがんもと、ミキが好きだって言ってた餅入り巾着は買ってきた。おっと、一個だけ入ってるちくわぶは俺のだから! ……あとは昆布巻と野菜天とつくねが一個ずつくらい入ってるはずだから、適当に探して食ってくれ。こいつも早いもん勝ち」
「随分たくさん買ってきたね、ムツ。みんな奢りかい?」
「お、メグに言われて思い出した。……ここで重要なお知らせ! 俺が全部の個数と値段リストにして持ってるから、食ったら申告しろよ? 後で食った分請求するから」
金取んのかよ。
「何言ってんだよ、ユキ? 当たり前だろ? こんなん全部俺が自腹切ってたら金がいくらあっても足りねーだろうが! ……現に今、俺の財布はすっからかんだ」
有り金はたいて買えるだけ買った、とムツ。
……こいつ、時々後先考えずに無茶なことするよな。俺達が今払える金がないって言ったら、手持ちナシで数日過ごすつもりだったのか?
「では……実ッ食!」
すっかりおでん奉行気取りのムツが顔の正面で竹の割り箸を勢いよく割ったのを皮切りに、俺とメグ・ミキも箸を割ってスチロールの容器の中身に思い思いに箸先を伸ばす。取り皿がないので、二つある容器に全員が顔を寄せ具に染みた出汁が零れないようにしなければならないのだが、俺が最初の具をどれにしようか迷っている目と鼻の先でムツがちくわに齧り付いているのを見なきゃいけないのには、何とも形容し難い複雑な心境に陥った。
「っはー……あったまるなぁ……」
幸せそうな感じに眼鏡を曇らせながら野菜天を齧っていたメグが、一旦口を離して満足げな吐息をつく。それを視界の片隅に捉えつつ一通りの具材を眺めていた俺は、その内少しばかり残念な事実に気がついた。
「……あれ? おいムツ、牛すじは?」
「ぐーふぎ?」
多分牛すじ? と聞き返したかったんだろう、餅入り巾着の中身にかぶりついてびよびよやっているミキが大きな目をぱちぱちと瞬く。ちくわの半分を食っていたムツも顔を上げると呆れたように苦笑してきた。
「牛すじ? おいおいユキちゃん、お前そんな可愛いナリして牛すじなんておっさん臭いもん食うのかよ。意外だな」
おっさん臭くて悪かったな、俺にとってはおでんといえば牛すじなんだよ。セブンのおでんの牛すじはなかなかに旨いから入っていないのが至極残念だ。
……ついでに、可愛いナリってのは余計。
「……牛すじ……牛すじで熱燗……」
「待ってユキ。君、僕と同い年だから未成年だよね」
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